日本民主主義文学会第29回大会宣言

 新型コロナ・パンデミックの未曾有の危機のもと、「コロナ禍を乗り越え、強権政治に対峙する文学運動」の構築をめざして、私たちは第二十九回大会を開催した。
 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、新自由主義の破綻を明らかにすると同時に、資本主義経済の帰結である格差拡大と環境破壊の矛盾を顕在化し激化させた。
 こうした危機的な状況にたいして、文学はどのように向き合っているだろうか。命の尊さを誰もがあらためて思わざるをえない日々の中で、文学にたいする自らの姿勢を問い、創造・批評活動を展開していくことが求められている。
 日本文学の少なくない作家たちが、コロナ禍と関わり合った作品を発表しているが、日本の文学が従来から抱える現実にたいする批判精神の脆弱さから、それが文学状況全体の主たる流れを形成するにいまだいたってはいない。それだけに、激変する歴史的現在の諸相に分け入り、社会と人間の真実をすくい取る民主主義文学が、日本と日本文学のなかに負う責任と役割はこれまでになく大きく、その重要性を増している。
 私たち民主主義文学はこの二年間、多様で多彩な題材を取り扱い、見舞われる困難を社会的な問題としてとらえ、人間らしい生き方と真実を描き出すことに真摯に取り組み、民主主義文学運動の存在意義を示そうと努めてきた。さらに広い読者を獲得していくためにも、文学的創造力の向上をめざし、コロナ禍に苛まれる人びとの琴線に触れる作品を生みだすための努力と相互批評を、活発にしていくことが必要である。
同時代の文学動向に関心をもち、作品が時代の課題の核心に迫り得ているか、何をどう描くかまで考えるきっかけになるような、創造性に満ちた批評もまた求められている。
コロナ・パンデミックが民主主義文学運動に及ぼした負の影響は小さくなく、文学会の組織は、創立以来かつてない危機的状況にある。文学運動の灯を何としても守り通すために、私たちは会員・準会員の拡大と『民主文学』の普及、支部活動の活性化に全力を注ぐ。そして、現在の危機を憂慮しているすべての文学者との共同の可能性を追求し、文学運動に参加する人びとの輪を広げるとともに、明日を準備する若い世代の参加を心から呼びかける。

  二〇二一年五月十六日

日本民主主義文学会第29回大会   

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