【声明】

安倍首相のTPP交渉への参加表明に抗議し、撤回をつよく求める

 安倍晋三首相は三月十五日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明した。
交渉を通じて最終的には「包括的で高い水準の協定を達成していく」ことを謳った日米共同声明は、「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明確になった」との首相の説明が詭弁であることを示すものだ。日本民主主義文学会は、安倍政権の公約を破ってのTPP交渉参加表明に怒りをこめて抗議し、撤回をつよく求める。
 関税と非関税障壁の撤廃を基礎とするTPPへの参加は、アメリカと多国籍企業の利益のためのルールを押しつけられることを意味する。ISD条項が盛り込まれた場合には、国家主権さえもが侵害される恐れがある。日本には交渉の余地が与えられず、参加後の脱退が非常に困難なことも、すでに確実視されている。
 TPPへの参加は、我が国の国民生活に計り知れない悪影響を及ぼすだろう。農林水産業に壊滅的な打撃を与え、現在も四〇%前後と世界最低水準の食料自給率をさらに大きく引き下げる。安定的な食料供給が不可能となり、食の安全が脅かされることは明らかである。また、食品の表示制度、環境保護制度、国民皆保険など、国民の運動と行政の努力とが長い年月をかけて実現させてきた命と暮らしを守るための施策を崩壊させる。医療、介護、教育といった分野の市場化・営利化は、人が尊厳をもって生きていくうえで欠かすことのできない福祉や教育、社会保障を根底から破壊する。知的財産権の保護強化は、文化や医療技術の発展とその成果の適切な普及、著作権者の尊重に必ずしも寄与しない側面も併せ持つ。政府調達の自由化による外国企業の公共事業への参入は、地方経済の衰退をもたらし、地域社会の活性化をいっそうの困難に陥れる。地元企業が復興事業を受注することなくしては、東日本大震災で打撃を受けた東北地方の再生はあり得ない。
 あらゆる分野における外国資本の暴力的な参入は、日本の伝統的文化の継承を阻害する危険性がある。何よりも、国民の経済的・肉体的・精神的なゆとりが奪われていけば、文化的財産が一部の富裕層にしか享受できないものとなり、創作を志す人の道も閉ざされ、芸術と文化の発展が妨げられることは疑いようがない。一人ひとりの人間の幸福と文化国家としての自国の成熟を願って文学にたずさわってきた私たちは、日本がTPP交渉への参加表明を撤回し、独立した一国として真に国民の利益となる経済政策・国際関係を実現していくよう、心から訴える。

   2013年3月24日    
日本民主主義文学会第五回幹事会  

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