「労働者の現状と文学研究会」 (2011年9月)


   塚原理恵 『孤独のかたち』  
 
  九月二十二日(木)、塚原理恵『孤独のかたち』(民主文学館)について、同著で「解説」を書かれた澤田章子氏が報告。牛久保建男氏の司会。九名が参加した。
 澤田氏は、まず塚原理恵さんの略年譜より、看護師として幅広い研究活動や組合運動に携わりながら、文学に着実に反映させてきた塚原さんの真摯な足跡を紹介。
 続いて、作者自身の人生の出発がてらいなく、客観性をもって描かれた「灯り」が、巻頭に置かれたことで、短編集としての成功の大きな位置を占めていること、作品集全体を通して、「本当の看護」とは何か、が追求されており、作者自身がその実現のために苦闘してきた実人生の実感から産み出されている処に、一冊の意義と魅力があると述べた。
 同著に収録された他作品については、看護についての作者の専門的問題意識と豊かな人生経験に支えられた一作一作となっていることと合わせて、全体として説明的である「アンネのバラのように」、現代の医療問題への鋭い批判が表に出ていない「ナースコール」「贈り物」などにたいして、課題や注文も提示された。タイトルに採られた「孤独のかたち」は、傾聴ボランティアという新しい分野を示したとともに、塚原の文学に新たな進境が示された作、と今後への期待を寄せ、澤田氏は報告を締めくくった。
討論では、「全編を通して、作者の書く姿勢や、作品の骨格、基調に揺らぎがないこと、ストーリー性、展開が巧みなことに驚かされる」、「看護師として働くことの喜びや、生きたいという患者の思いが、よく描けている」など、一九八五年の「終焉の看取り」以来、『民主文学』にずっと書き続けてきた作者と作品への賞賛と労いの声が続いた。
 塚原さんは著書出版のいきさつや、ご自分の来し方を振り返りながら、「医師と看護師との関係をどう描くかにとても苦労した。管理職に就いてからは、とくに書けなくなった。労働運動が後退するなかで、地域と一体になって医療を守るたたかいが起こっている。医療や介護をめぐるさまざまな攻撃の本質をよく見据えて、これからも書いていきたい」と結んだ。体験と小説とのかかわりを、深く考えさせてくれる研究会であった。
   
 
  (山形暁子)    

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